ジョルダン標準形への変形

こんにちはコーヤです。

このページでは対角化できない行列を「対角化っぽく」する、ジョルダン標準形という形への変形を勉強します。

ジョルダン標準形の目的

ジョルダン標準形の目的は対角化できない行列を「対角化っぽく」変形するためです。

「対角化っぽく」だと基準が曖昧になってしまうので、対角化っぽいとみなせる形を決めてしまい、その形のことをジョルダン標準形と呼びます。

それでは具体的にジョルダン標準形の形を見ていきましょう。

ジョルダン細胞とジョルダン標準形

ジョルダン標準形の前に、まずはジョルダン細胞の形から勉強します。

k次のジョルダン細胞はJ(λ,k)と表され、以下のような形をしています。

J(λ,1)=(λ)J(λ,2)=(λ10λ)J(λ,3)=(λ100λ100λ)

こんな感じで、対角成分の右上が1になっている行列をジョルダン細胞と呼びます。

このジョルダン細胞を対角成分に持つ対角行列がジョルダン標準形になります。

以下の行列Jを例にします。

J=(λ110000000λ100000000λ210000000λ210000000λ200000000λ300000000λ410000000λ4)

0ばっかりで見にくいですが、右上と左下の0を非表示にすると

J=(λ110λ1λ2100λ2100λ2λ3λ410λ4)

となるので

J=(J(λ1,2)0000J(λ2,3)0000J(λ3,1)0000J(λ4,2))

このようにジョルダン細胞を使った対角行列にできました。なので行列Jはジョルダン標準形といえます。

また、このように表現することもあります。

J=J(λ1,2)J(λ2,3)J(λ3,1)J(λ4,2)

普通の対角行列もジョルダン標準形とみなすことができます。

D=(λ100λ2)=(J(λ1,1)00J(λ2,1))

1次のジョルダン細胞だけで表せるジョルダン標準形が対角行列になります。

ジョルダン標準形の計算4ステップ

それでは具体例なジョルダン標準形に変形する計算を見ていきます。対角化の4ステップに沿ってやっていきます。

このページはジョルダン標準形がテーマなので対角化できない行列を例に挙げますが、実践では対角化できるかどうか分からない状態で計算スタートします。

まずは対角化に向かって進んでいき、対角化できないと判明したらジョルダン標準形に進路変更しましょう。

以下の具体例では最初は対角化に向かって進み、途中でジョルダン標準形に切り替える流れで計算します。

今回は以下の行列Aを対角化します。

A=(2110)

Step1. 固有値と固有ベクトルを求める

行列Aの固有方程式は

det(AλE)=|2λ11λ|=(λ+1)2

これより固有値、固有ベクトルは

λ1=1

v1=k1(11)

です。

Step2. 対角化可能か判定する

n次の行列を対角化したいときはn個の線形独立な固有ベクトルが必要です。

行列Aは2次ですが線形独立な固有ベクトルは1個しか得られませんでしたので、行列Aは対角化ができないことが判明しました。

本当は以下のような対角行列Dに変形したかったですが、ジョルダン標準形Jを目指すことにします。

D=(1001)J=(1101)

Step3. 変換行列Pを作る

本来だったら固有ベクトルv1,v2が得られて変換行列Pを作る予定でしたが、今はv1しかありません。

仕方ないので別のベクトルv1を作って不足分を埋めることにします。

さて、固有ベクトルvは以下の式(1)を満たすものでした。

(1)(AλE)v=0

不足分を補うベクトルvは以下の式(2)を満たすように作ります。

(2)(AλE)v=v

このルールに従ってv1を計算します。

v1=(x1y1)

として

(Aλ1E)v1=(2(1)11(1))(x1y1)=(1111)(x1y1)

この計算結果を

(Aλ1E)v1=v1

に代入して

(1111)(x1y1)=k1(11)

これは非同次連立1次方程式の形になっています。拡大係数行列は以下のようになります。

(11k111k1)

これは自由度1なので任意定数1個でv1を表現できます。

任意定数をk1として

v1=k1(01)+k1(11)

となります。

それでは不足分のベクトルも得られたので変換行列Pを作ります。

P=(v1v1)=(k1k1k1k1+k1)

Pに任意定数k1,k1があるままだと面倒なので、計算が楽になるようにテキトーにk1,k1の値を決めます。

今回はk1=k1=1として変換行列P

P=(1112)

とします。

Step4. 逆行列P1を計算する

Pの逆行列を計算すると

P1=(2111)

となります。

最終的に対角化の式P1AP=Jに代入して

(2111)(2110)(1112)=(1101)

となり対角化完了です。

高次のジョルダン標準形に向けて

2次のジョルダン標準形の変形の計算が終わりました。計算の雰囲気は感じとっていただけたかと思います。

対角化の計算と異なるのはステップ3の部分で、固有ベクトルの不足分を補うベクトルを作るところです。

2次のジョルダン標準形は式(2)を満たすように追加のベクトルを作ればOKですが、3次以降のジョルダン標準形では式(2)以外のパターンも存在します。

ここから3次以降のジョルダン標準形の計算に向けての補足説明をします。

広義固有ベクトル

上の例では固有ベクトルvの不足を別のベクトルvで補うことでジョルダン標準形に変形しました。

このベクトルvのことを広義固有ベクトルと言います。

固有ベクトルvは式(1)を満たすベクトルでしたが、広義固有ベクトルvは式(3)を満たすベクトルのことです。

(1)(AλE)v=0

(3)(AλE)mv=0

mは1以上の整数です。この2式からわかるようにm=1の場合の広義固有ベクトルは固有ベクトルと一致します。

ジョルダン鎖

上の例では式(2)のように固有ベクトルvを用いて広義固有ベクトルvが満たす条件を決めました。

(2)(AλE)v=v

つまり固有ベクトルと広義固有ベクトルは関連付けられているとも言えます。

この関連のことを鎖でつながっているイメージで捉え、ジョルダン鎖と呼ばれています。

広義固有ベクトルの求め方として式(2)と式(3)で2パターンあるように思えますが、2式は同じ意味を表しています。

式(2)の両辺に(AλE)を左側からかけて

(AλE)2v=(AλE)v

この右辺に式(1)を代入すると

(AλE)2v=0

これは式(3)のm=2の場合と一致しています。

鎖のイメージなので広義固有ベクトルの関連付けは連鎖していきます。式で表すと以下のようになります。

(AλE)v=0(AλE)v=v(AλE)v=v(AλE)v=v

2次のジョルダン標準形では広義固有ベクトルが1つ求まればOKなのでジョルダン鎖を意識する必要はありませんが、高次になると複数の広義固有ベクトルが必要になる場合があります。

その時はジョルダン鎖を満たすように広義固有ベクトルを見つけていけばジョルダン標準形への変換行列が作れます。

ジョルダン鎖を意識しながら広義固有ベクトルを計算する問題は次のページで勉強します。

まとめ

対角化できないと判明したら、ジョルダン標準形へ進路変更しましょう。

固有ベクトルvの不足分を補う広義固有ベクトルvは以下のジョルダン鎖の条件を満たすように作ります。

(AλE)v=v

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