線形空間の性質

こんにちはコーヤです。

このページでは線形代数の鬼門である線形空間の性質を勉強します。

線形空間の勉強の前に

線形空間の分野はどうしても抽象的な話になってしまいます。しかも急に難解な言葉が使われるようになり、線形空間を定義する目的もいまいちハッキリしません。難しく感じる原因の詰め合わせみたいな分野です。

私も大学生のとき、この分野が理解できずに投げ出しました。ある程度線形代数の全体像を把握できてからもう一度勉強し直してようやくぼんやりと分かるようになりました。

このページで線形空間と初対面の方は意味が分からないままかもしれません。今は分からなくても流し読みして次の分野に進みましょう。対角化やジョルダン標準形の勉強が終わってから、いつかこのページに帰ってきたときにもう一度じっくり勉強すれば大丈夫です。

用語の意味

と言いつつも、せめて用語の意味だけでも理解した状態で流し読みしたいので、よく出てくる言葉とその具体的な意味を示しておきます。

集合

いろんな数が集まったものを集合と言います。

$$
V_1
=
\{
4,7,10,13,16,19,\cdots 97
\}
$$

集合$V_1$は3で割ったら1余る数みたいです。

集合の中身を$\cdots$で省略すると正確な表現ではなくなってしまうので、以下のような書き方で集合を示します。

$$
V_1
=
\left\{
\begin{array}{c|ccc}
x
&
x=3n+1,
&
n \leq 32,
&
n \in \mathbb{N}
\end{array}
\right\}
$$

ややこしい見た目になりましたが、式を1個ずつ見れば意味は伝わると思います。

では以下の集合$V_2$にはどんな数が含まれているでしょうか。

$$
V_2
=
\left\{
\begin{array}{c|ccc}
\boldsymbol{v}
=
\begin{pmatrix}
x \\
y
\end{pmatrix}
&
2x-y=0
\end{array}
\right\}
$$

集合$V_2$は$2x-y=0$を満たす2次元列ベクトルが含まれている集合です。

$$
\left.
\begin{array}{ccc}
\boldsymbol{v}_1
=
\begin{pmatrix}
1 \\
2
\end{pmatrix}
&
\boldsymbol{v}_2
=
\begin{pmatrix}
-2 \\
-4
\end{pmatrix}
&
\boldsymbol{v}_3
=
\begin{pmatrix}
3 \\
3
\end{pmatrix}
\end{array}
\right.
$$

$\boldsymbol{v}_1$と$\boldsymbol{v}_2$は集合$V_2$に含まれますが$\boldsymbol{v}_3$は集合$V_2$に含まれません。

整数とベクトルを例に挙げましたが、分数でも関数でも行列でも集合になります。

「げん」と読みます。集合の中身1個1個のことを表す言葉です。

7は集合$V_1$の元です。8は集合$V_1$の元ではありません。

$\boldsymbol{v}_1$と$\boldsymbol{v}_2$は集合$V_2$の元です。$\boldsymbol{v}_3$は集合$V_2$の元ではありません。

$\boldsymbol{v}_1$と$\boldsymbol{v}_2$以外にも集合$V_2$の元は無数にあります。

線形空間の条件2つ

集合$V$のうち特別な条件を満たすものを線形空間と呼びます。

その特別な条件を満たすかどうか調べるために集合$V$の任意の元$\boldsymbol{a} , \boldsymbol{b}$に対して2段階のフィルタリングを行います。

  • 和の演算とスカラー倍の演算が定義されているか
  • 演算の性質8つ全て成り立つか

この2つのフィルターを突破すれば集合$V$は線形空間を名乗れるようになる、というイメージです。

ではフィルターの中身を詳しく見ていきましょう。

Filter1. 和の演算とスカラー倍の演算が定義されているか

Filter1-1. 和の演算

まずは和の演算から見ていきます。

$\boldsymbol{a} + \boldsymbol{b}$という計算を行うことができて、その足した結果も集合$V$の元になっていればOKです。

集合$V_1$の元である4と97を足すと101となります。101は集合$V_1$の元ではないため、集合$V_1$は和の演算が定義されていないと判断できます。

集合$V_2$の元である$\boldsymbol{v}_1$と$\boldsymbol{v}_2$を足した結果は集合$V_2$の元になっています。集合$V_2$には$\boldsymbol{v}_1$と$\boldsymbol{v}_2$以外にもたくさん元がありますが、どの元を選んでも足した結果は集合$V_2$の元になっています。したがって集合$V_2$は和の演算が定義されていると判断できます。

Filter1-2. スカラー倍の演算

次にスカラー倍の演算です。

あるスカラー$k$を用いて$k \boldsymbol{a}$という計算を行うことができて、スカラー倍した結果も集合$V$の元になっていればOKです。

集合$V_1$の元である4にスカラー4をかけると16となります。16は集合$V_1$の元なので、集合$V_1$はスカラー倍の演算が定義されていると判断できる、、、

といきたいところですが、任意の元と任意のスカラーで成り立っていないとダメです。集合$V_1$の元である7にスカラー2をかけた14は集合$V_1$の元ではないため、集合$V_1$はスカラー倍の演算が定義されていないと判断できます。

「任意の」という表現が分かりにくい人は、「全ての」「あらゆるパターンの」と変換してください。

集合$V_2$の元である$\boldsymbol{v}_1$を-2倍したら$\boldsymbol{v}_2$になり、集合$V_2$の元になっています。もちろん-2倍以外で任意のスカラー倍しても集合$V_2$の元になっています。したがって集合$V_2$はスカラー倍の演算が定義されていると判断できます。

Filter2. 演算の性質8つ全て成り立つか

次のフィルターです。和の演算とスカラー倍の演算に対して、以下の性質8個が全て成り立っていることを確認しないといけません。

集合$V$の任意の元$\boldsymbol{a} , \boldsymbol{b} , \boldsymbol{c}$とし、任意のスカラーを$k,l$とします。

Filter2-1

和の結合法則を満たすか調べます。

$$
( \boldsymbol{a} + \boldsymbol{b} ) + \boldsymbol{c}
=
\boldsymbol{a} + ( \boldsymbol{b} + \boldsymbol{c} )
$$

が成り立てばOKです。

Filter2-2

和の交換法則を満たすか調べます。

$$
\boldsymbol{a} + \boldsymbol{b}
=
\boldsymbol{b} + \boldsymbol{a}
$$

が成り立てばOKです。

Filter2-3

零ベクトルとの和を調べます。

$$
\boldsymbol{a} + \boldsymbol{0}
=
\boldsymbol{0} + \boldsymbol{a}
=
\boldsymbol{a}
$$

このような性質を満たす$\boldsymbol{0}$を零ベクトルといいます。

  • 零ベクトルが集合$V$の元であること
  • 集合$V$の元に零ベクトルの性質を満たすものが1つだけであること

の2つが成り立てばOKです。

Filter2-4

逆ベクトルとの和を調べます。

$$
\boldsymbol{a} + \boldsymbol{x}
=
\boldsymbol{x} + \boldsymbol{a}
=
\boldsymbol{0}
$$

このような性質を満たす$\boldsymbol{x}$を逆ベクトルといいます。

  • 逆ベクトルが集合$V$の元であること
  • 集合$V$の元に逆ベクトルの性質を満たすものが1つだけであること

の2つが成り立てばOKです。

Filter2-5

スカラー1による演算結果を調べます。

$$
1 \boldsymbol{a}
=
\boldsymbol{a}
$$

が成り立てばOKです。

Filter2-6

和の分配法則を満たすか調べます。

$$
k ( \boldsymbol{a} + \boldsymbol{b} )
=
k \boldsymbol{a} + k \boldsymbol{b}
$$

が成り立てばOKです。

Filter2-7

スカラー倍の分配法則を満たすか調べます。

$$
( k + l ) \boldsymbol{a}
=
k \boldsymbol{a} + l \boldsymbol{a}
$$

が成り立てばOKです。

Filter2-8

スカラー倍の結合法則を満たすか調べます。

$$
( kl ) \boldsymbol{a}
=
k ( l \boldsymbol{a} )
$$

が成り立てばOKです。

ズラーっと書いてきましたがやっと終わりです。

結果だけ書きますが集合$V_2$は8個全て満たします。フィルター1もフィルター2も突破できる集合$V_2$は線形空間だといえます。

線形空間の具体例

集合が出てくるたびに線形空間かどうか調べていると日が暮れてしまうので、よく出てくる線形空間を挙げておきます。

$x,y$平面

$x,y$平面は線形空間です。

$$
\boldsymbol{v}
=
\begin{pmatrix}
x \\
y
\end{pmatrix}
$$

の集合なので2次元列ベクトル空間$R^2$と表現されることが多いです。

$x,y,z$空間

3次元空間も線形空間です。

$$
\boldsymbol{v}
=
\begin{pmatrix}
x \\
y \\
z
\end{pmatrix}
$$

の集合なので3次元列ベクトル空間$R^3$と表現されることが多いです。

$n$次元列ベクトル

上記の平面と空間を拡張したものも線形空間です。

$$
\boldsymbol{v}
=
\begin{pmatrix}
x_1 \\
x_2 \\
\vdots \\
x_n
\end{pmatrix}
$$

の集合なので$n$次元列ベクトル空間$R^n$と表現されることが多いです。

実数全体

実数全体は線形空間です。

冒頭の例の$V_1$のように飛び飛びだったり有限だったりすると線形空間にはなりません。

多項式

$$
f(x)=ax^2+bx+c
$$

例えば2次多項式の関数$f(x)$が作る空間は線形空間です。

$n$次多項式の関数も線形空間です。

行列

$$
A
=
\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d
\end{pmatrix}
$$

例えば2次正方行列$A$が作る空間は線形空間です。

$m$行$n$列の行列も線形空間です。

線形空間を定義する目的

なんのために線形空間なんて定義して面倒くさい計算をやっているんでしょうか?

私もハッキリとした答えは分かりませんが、未知の数が出現したときに備えたい、というのが目的の1つだと思います。

中学生までは$ab=ba$のようにかけ算の順番を入れ替えてもOKでしたが、行列では成り立ちません。

高校生で習ったベクトルの内積は$\vec a \cdot \vec b = \vec b \cdot \vec a$のように順番を入れ替えてもOKでしたが、複素ベクトルでは成り立ちません。

もし行列や複素ベクトルよりもっとスゴイ数が出現した時、私たちが当然だと思っている性質も成り立たない可能性があります。

スゴイ数の性質を調べるときに手探りで闇雲に調べたら大変ですが、線形空間のルールを知っていればスゴイ数が線形空間かどうかで分類できます。他にも様々な分類を行えばスゴイ数の性質が求められるかもしれませんね。

線形空間を定義する目的、線形空間のありがたさ、などなどご存知の方がいらっしゃいましたら教えていただけますと幸いです。

まとめ

線形空間は以下2つの性質を満たす集合のことです。

  • 和の演算とスカラー倍の演算が定義されている
  • 演算の性質8つ全て成り立つ

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