こんにちはコーヤです。
このページでは基底変換を行う表現行列の計算方法を3ステップに分けて勉強します。式変形するのと同じように、自由に空間を変形できるようになります。
基底の変換の目的
線形写像を使って基底変換を行うことがあります。
例えば3次元列ベクトル空間$R^3$を作ろうと思ったとき、以下の$\boldsymbol{e}_1 , \boldsymbol{e}_2 , \boldsymbol{e}_3$を基底にしてもいいですし$\boldsymbol{f}_1 , \boldsymbol{f}_2 , \boldsymbol{f}_3 $を基底にしてもOKです。
$$
\begin{array}{ccc}
\boldsymbol{e}_1
=
\begin{pmatrix}
1 \\
0 \\
0
\end{pmatrix}
&
\boldsymbol{e}_2
=
\begin{pmatrix}
0 \\
1 \\
0
\end{pmatrix}
&
\boldsymbol{e}_3
=
\begin{pmatrix}
0 \\
0 \\
1
\end{pmatrix}
\end{array}
$$
$$
\begin{array}{ccc}
\boldsymbol{f}_1
=
\begin{pmatrix}
1 \\
3 \\
2
\end{pmatrix}
&
\boldsymbol{f}_2
=
\begin{pmatrix}
2 \\
4 \\
3
\end{pmatrix}
&
\boldsymbol{f}_3
=
\begin{pmatrix}
3 \\
2 \\
5
\end{pmatrix}
\end{array}
$$
$\langle \boldsymbol{e}_1 , \boldsymbol{e}_2 , \boldsymbol{e}_3 \rangle$の$R^3$を$E$とし、$\langle \boldsymbol{f}_1 , \boldsymbol{f}_2 , \boldsymbol{f}_3 \rangle$の$R^3$を$F$とします。
$E$も$F$も同じ$R^3$ですが$F$で表されるより$E$で表してくれた方が分かりやすいです。
なので$F$のようなイマイチな基底を使っている空間があったら、$E$みたいな分かりやすい基底に変換してあげましょう、というのが基底変換の目的です。
基底変換の計算に使われるのが表現行列です。それでは表現行列の計算方法を見ていきます。
表現行列の計算3ステップ
線形空間$V$から線形空間$W$への線形写像$f:V \to W$とします。
表現行列の計算方法は3ステップです。
- $V$の基底を$f$で線形写像する
- 結果を$W$の基底で表現する
- 行列形式に変形する
それでは、ベクトルが基底の線形空間と関数が基底の線形空間の2つの具体例で、表現行列を計算していきます。
ベクトルが基底の基底変換
$V$空間から$W$空間への線形写像$f:V \to W$とします。
$V$を2次元列ベクトル空間$R^2$とし、基底を$\langle \boldsymbol{v}_1 , \boldsymbol{v}_2 \rangle$とします。
$W$を2次元列ベクトル空間$R^2$とし、基底を$\langle \boldsymbol{w}_1 ,\boldsymbol{w}_2 \rangle$とします。
それぞれ具体的な数値は以下のように定義します。
$$
f:
\begin{pmatrix}
x \\
y
\end{pmatrix}
\mapsto
\begin{pmatrix}
x-y\\
x+y
\end{pmatrix}
$$
$$
\begin{array}{cc}
\boldsymbol{v}_1
=
\begin{pmatrix}
1 \\
2
\end{pmatrix}
&
\boldsymbol{v}_2
=
\begin{pmatrix}
3 \\
1
\end{pmatrix}
\\\\
\boldsymbol{w}_1
=
\begin{pmatrix}
0 \\
1
\end{pmatrix}
&
\boldsymbol{w}_2
=
\begin{pmatrix}
1 \\ 0
\end{pmatrix}
\end{array}
$$
具体例として$V$の点$(2,-1)$は$x=2,y=-1$より$x-y=3,x+y=1$になるので$W$の点$(3,1)$に移されます。
$\mapsto$という記号を使って線形写像を表しています。これは元の対応を表す記号です。
$$
f:
\begin{pmatrix}
x \\
y
\end{pmatrix}
\mapsto
\begin{pmatrix}
x-y\\
x+y
\end{pmatrix}
$$
この線形写像は$V$を$x,y$座標、$W$を$x’,y’$座標とした以下の線形写像と同じ意味です。
$$
\begin{pmatrix}
x’ \\
y’
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
1 & -1 \\
1 & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x \\
y
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
x-y\\
x+y
\end{pmatrix}
$$
それでは表現行列の計算方法を見ていきます。
Step1. $V$の基底を$f$で線形写像する
まずは$V$の基底を$f$で線形写像します。
$\boldsymbol{v}_1$は$(1,2)$が成分のベクトルです。これを線形写像すると$x=1,y=2$より$x-y=-1,x+y=3$なので$W$の$(-1,3)$が成分のベクトルに移ります。
同様に$\boldsymbol{v}_2$の$(3,1)$は$W$の$(2,4)$に移ります。
ここまでを式で表すと
$$
\begin{array}{cc}
f(\boldsymbol{v}_1)
=
\begin{pmatrix}
-1 \\
3
\end{pmatrix}
&
f(\boldsymbol{v}_2)
=
\begin{pmatrix}
2 \\
4
\end{pmatrix}
\end{array}
$$
です。
Step2. 結果を$W$の基底で表現する
ステップ1の結果を$\boldsymbol{w}_1$と$\boldsymbol{w}_2$で表現します。
まずは$(-1,3)$成分から
$$
\begin{align}
\begin{pmatrix}
-1 \\
3
\end{pmatrix}
&=
3
\begin{pmatrix}
0 \\
1
\end{pmatrix}
-\begin{pmatrix}
1 \\
0
\end{pmatrix}
\\\\&=
3\boldsymbol{w}_1-\boldsymbol{w}_2
\end{align}
$$
こうなります。同様に$(2,4)=4\boldsymbol{w}_1 +2 \boldsymbol{w}_2$です。
ここまでを式で表すと
$$
\begin{align}
f(\boldsymbol{v}_1)
&=
3\boldsymbol{w}_1-\boldsymbol{w}_2
\\\\
f(\boldsymbol{v}_2)
&=
4\boldsymbol{w}_1 +2 \boldsymbol{w}_2
\end{align}
$$
です。
Step3. 行列形式に変形する
ステップ2で求めた式を行列形式で表現します。
$$
\begin{pmatrix}
f(\boldsymbol{v}_1) & f(\boldsymbol{v}_2)
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{w}_1 & \boldsymbol{w}_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
3 & 4\\
-1 & 2
\end{pmatrix}
$$
ということで線形写像$f:V \to W$の表現行列は
$$
\begin{pmatrix}
3 & 4\\
-1 & 2
\end{pmatrix}
$$
になります。
表現行列の使い方
表現行列が求まったので使い方を見ていきます。
冒頭の例で使った$V$の点$(2,-1)$が$W$の点$(3,1)$に写像されることを表現行列を使って確認します。
まずは$V$の点$(2,-1)$を$V$の基底を使って表現すると
$$
\begin{align}
\begin{pmatrix}
2 \\
-1
\end{pmatrix}
&=
-\boldsymbol{v}_1 + \boldsymbol{v}_2
\\\\&=
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{v}_1 & \boldsymbol{v}_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
-1 \\
1
\end{pmatrix}
\end{align}
$$
となります。
次に表現行列を使って
$$
\begin{pmatrix}
3 & 4\\
-1 & 2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
-1 \\
1
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
1 \\
3
\end{pmatrix}
$$
です。
$W$の基底を反映させてあげて
$$
\begin{align}
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{w}_1 & \boldsymbol{w}_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1 \\
3
\end{pmatrix}
&=
\boldsymbol{w}_1 + 3\boldsymbol{w}_2
\\\\&=
\begin{pmatrix}
3 \\
1
\end{pmatrix}
\end{align}
$$
です。たしかに点$(3,1)$に写像されていることが確認できました。
空間の対応の計算方法
最後に$V$と$W$の対応関係として$V$の点$(\alpha,\beta)$が$W$のどこに写像されるかを計算します。
まずは$V$の点$(\alpha,\beta)$を$V$の基底を使って表現すると
$$
\begin{align}
\begin{pmatrix}
\alpha \\
\beta
\end{pmatrix}
&=
c_1\boldsymbol{v}_1 + c_2\boldsymbol{v}_2
\\\\&=
\begin{pmatrix}
1 & 3 \\
2 & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
c_1 \\
c_2
\end{pmatrix}
\end{align}
$$
となります。
これは非同次連立1次方程式の形になっています。自由度0なので普通に連立方程式を解いて
$$
\begin{align}
c_1
&=
-\displaystyle\frac{1}{5}\alpha
+\displaystyle\frac{3}{5}\beta
\\\\
c_2
&=
\displaystyle\frac{2}{5}\alpha
-\displaystyle\frac{1}{5}\beta
\end{align}
$$
次に表現行列を使って
$$
\begin{align}
\begin{pmatrix}
3 & 4\\
-1 & 2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
c_1 \\
c_2
\end{pmatrix}
&=
\begin{pmatrix}
3c_1+4c_2 \\
-c_1+2c_2
\end{pmatrix}
\\\\&=
\begin{pmatrix}
\alpha+\beta \\
\alpha-\beta
\end{pmatrix}
\end{align}
$$
です。
$W$の基底を反映させてあげて
$$
\begin{align}
\begin{pmatrix}
\boldsymbol{w}_1 & \boldsymbol{w}_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\alpha+\beta \\
\alpha-\beta
\end{pmatrix}
&=
(\alpha+\beta)\boldsymbol{w}_1 + (\alpha-\beta)\boldsymbol{w}_2
\\\\&=
\begin{pmatrix}
\alpha-\beta \\
\alpha+\beta
\end{pmatrix}
\end{align}
$$
です。
以上より$V$の点$(\alpha,\beta)$は$W$の点$(\alpha-\beta,\alpha+\beta)$に写像されていることがわかりました。
関数が基底の基底変換
関数が基底になっても計算方法は全く同じです。
線形空間$V$から線形空間$W$への線形写像$f:V \to W$とします。
$V$を2次以下の関数とし、基底を$\langle v_1 , v_2 , v_3\rangle$とします。
$W$を1次以下の関数とし、基底を$\langle w_1 , w_2 \rangle$とします。
それぞれ具体的な数値は以下のように定義します。
$$
f(p(x)) = p'(x)
$$
$$
\begin{array}{ccc}
v_1=1 & v_2=x & v_3=x^2
\\\\
w_1=1 & w_2=x &
\end{array}
$$
具体例として$V$の関数$3x^2+2x+1$は微分されて$W$の関数$6x+2$に移されます。
それでは表現行列の計算方法を見ていきます。
Step1. $V$の基底を$f$で線形写像する
まずは$V$の基底を$f$で写像します。
$v_1=1$なので線形写像したら$0$です。
$v_2=x$なので線形写像したら$1$です。
$v_3=x^2$なので線形写像したら$2x$です。
「線形写像したら」という書き方ではピンとこないかもしれませんが「微分したら」に読み替えたら分かりやすいです。
ここまでを式で表すと
$$
\begin{align}
f(v_1) &= 0
\\\\
f(v_2) &= 1
\\\\
f(v_3) &= 2x
\end{align}
$$
です。
Step2. 結果を$W$の基底で表現する
ステップ1の結果を$w_1$と$w_2$で表現します。
$w_1=1$と$w_2=x$より以下のような式になります。
$$
\begin{align}
f(v_1) &= 0 w_1 + 0 w_2
\\\\
f(v_2) &= 1 w_1 + 0 w_2
\\\\
f(v_3) &= 0 w_1 + 2 w_2
\end{align}
$$
です。
Step3. 行列形式に変形する
ステップ2で求めた式を行列形式で表現します。
$$
\begin{pmatrix}
f(v_1) & f(v_2) & f(v_3)
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
w_1 & w_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
0 & 1 & 0\\
0 & 0 & 2
\end{pmatrix}
$$
ということで線形写像$f:V \to W$の表現行列は
$$
\begin{pmatrix}
0 & 1 & 0\\
0 & 0 & 2
\end{pmatrix}
$$
になります。
表現行列の使い方
表現行列の使い方を見ていきます。
冒頭の例で使った$V$の関数$3x^2+2x+1$が$W$の関数$6x+2$に写像されることを表現行列を使って確認します。
まずは$V$の関数$3x^2+2x+1$を$V$の基底を使って表現すると
$$
\begin{align}
3x^2+2x+1
&=
v_1 + 2 v_2 + 3 v_3
\\\\&=
\begin{pmatrix}
v_1 & v_2 & v_3
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1 \\ 2 \\ 3
\end{pmatrix}
\end{align}
$$
となります。
次に表現行列を使って
$$
\begin{pmatrix}
0 & 1 & 0\\
0 & 0 & 2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
1 \\
2 \\
3
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
2 \\
6
\end{pmatrix}
$$
です。
$W$の基底を反映させてあげて
$$
\begin{align}
\begin{pmatrix}
w_1 & w_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
2 \\
6
\end{pmatrix}
&=
2 w_1 + 6 w_2
\\\\&=
6x + 2
\end{align}
$$
です。たしかに関数$6x+2$に写像されていることが確認できました。
空間の対応の計算方法
最後に$V$と$W$の対応関係として$V$の関数$\alpha x^2+\beta x+\gamma$がどのように$W$に写像されるかを計算します。
まずは$V$の関数$\alpha x^2+\beta x+\gamma$を$V$の基底を使って表現すると
$$
\begin{align}
\alpha x^2+\beta x+\gamma
&=
\gamma v_1 + \beta v_2 + \alpha v_3
\\\\&=
\begin{pmatrix}
v_1 & v_2 & v_3
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\gamma \\ \beta \\ \alpha
\end{pmatrix}
\end{align}
$$
となります。
次に表現行列を使って
$$
\begin{pmatrix}
0 & 1 & 0\\
0 & 0 & 2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\gamma \\
\beta \\
\alpha
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
\beta \\
2\alpha
\end{pmatrix}
$$
です。
$W$の基底を反映させてあげて
$$
\begin{align}
\begin{pmatrix}
w_1 & w_2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\beta \\
2\alpha
\end{pmatrix}
&=
\beta w_1 + 2\alpha w_2
\\\\&=
2\alpha x + \beta
\end{align}
$$
です。
以上より$V$の関数$\alpha x^2+\beta x+\gamma$は$W$の関数$2\alpha x + \beta$に写像されていることがわかりました。
まとめ
表現行列の計算方法は3ステップです。
- $V$の基底を$f$で写像する
- 結果を$W$の基底で表現する
- 行列形式に変形する
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